ジグザグ!

不滅の棘

 

1603年
ギリシャクレタ島。医師ヒエロニムス・マクロプロスは不死の秘薬と偽り、国王ルドルフ2世を欺いた。王の差し向けた刺客に襲われた彼は、死の間際に息子エリィにある事実を告げる。 「お前に飲ませた薬だけが本物の不死の薬だ」と。

1816年
不死の身のまま今は、プラハの宮廷のお抱え歌手エリィ・マック・グレゴルとして生きる彼は、令嬢フリーダ・プルスに愛されていた。エリィの愛を乞うフリーダに、例え誰を愛してもその相手は自分を置いて世を去ってしまうと、自らに人を愛することを禁じてきたエリィの心は揺れ動き、二人はひとつの影となって去っていく。

1933年
四代前から引き継いだ、百年に及ぶ裁判の原告である フリーダ・グレゴルは苛立ちを露にしていた。弁護士コレナティの助言を無視し、訴えを最高裁に持ち込んだものの、間もなく敗訴の判決が下ろうとしているのだ コレナティの息子アルベルトの、なぜ殊更に訴訟を急ぐのかとの問いにフリーダは答える。「命は短い。だからお金が欲しいの」と。
そこへ突然、公演の為にプラハに滞在中の有名歌手 エロール・マックスウェルが現れる。 呆気にとられる一同をよそに、 エロールはフリーダの裁判に興味を示す。
彼に請われ、コレナティが事件の経緯を説明すると、エロールは百年も前の事件についての有力な情報を次々明かしだす。そんな彼の様子にアルベルトは違和感を感じるが、フリーダは裁判を勝訴に導く情報に夢中である。
ついにエロールは、証拠を欲しがるコレナティに「証拠なら訴訟相手のプルス男爵邸にある。 今夜、それを盗みに行こう」とこともなげに言い放つ。なぜここまで協力してくれるのかと問うフリーダに、エロールは 「お前には幸せになって欲しい」とだけ答えるのだった。
プルス男爵邸には未亡人タチアナと、酒に溺れる毎日を送る息子ハンス、そんな兄を心配する心優しいクリスティーナが暮らしていた。エロールたちは邸に忍び込むが、運悪くクリスティーナに気付かれてしまう。エロールは取り乱したクリスティーナをなんとかなだめようとするが、ついに彼女はエロールに向けて発砲。背中に銃弾を受けたエロールは傷口を押さえながらも、クリスティーナに明日の自分の公演に必ず来るよう約束し、暗やみに消えていった。
翌日午後八時。すでに公演の幕は開いていた。しかし肝心のエロールの姿がまだ見えない。 一方、クリスティーナとタチアナも、 同じく公演の行方を見守っていた。はたして彼は無事なのか。
舞台上でエロールを称える歌が最高潮に達した時---- 何事もなかったかのように、悠然と微笑みながらエロールが現れ歌う。「スターは必ず甦るのさ」と。 百年前の事件を詳細に知り、銃撃された傷すら立ち所に癒えてしまう。一体エロールとは何者なのか。何のためにフリーダの前に現れたのか。やがて事件は不穏な様相を呈していく。

 


愛月ひかるさん、主演初東上おめでとうございました。

黄色い椅子や口紅や赤い封筒といった数少ない小物を除いて、衣装もセットもほとんどが白一色で統一されていた。
どのインタビュー記事だったか忘れてしまったのだけど「寂しさや虚無感の表れである」と書いてあった。
エリィ(のちにエロールとなる)は「世界は灰色だ」と言っていたので、エリィから見た世界は灰色に映っているのだとは思うけど、そのまま舞台に反映して灰色にしてしまうとちょっと美しさに欠けてしまうもんね。
というよりも、たしかに白ではあるのだけど、白というよりは無色と捉えても良さそうだなと思いながら眺めてた。色味のない世界というか。

愛することや愛されることを拒み続けていたけど、1816年以降に宮廷歌手として生きていたときにフリーダに愛されて、フリーダのことを愛してしまう。
その結果、フェルディナンドという息子が二人の間に生まれるのだけど、ワケあってエリィの元から離れてしまう。100年経って、348歳になってもずっとフリーダとフェルディナンドのことを恋しがって逢いたがってる姿が本当に切ない。

物語の終盤に、自分が不老不死であることを周りに居る人間たちに種明かしをした上で、薬のレシピを手にしたエロールが取り巻きたちに「要らないのか、永遠の命が手に入るんだぞ」って言っても誰も手を伸ばそうとしないし、エロールの正体を明かすまでは散々ちやほやしていた人たちが途端にエロールのことをバケモノを見るかのような目に変わってしまった様子が、エロールの抱える孤独とか感じている人との距離というのを分かりやすく表していたように見えた。

完全に自分の解釈で書いてるので解釈違いがあっても許して欲しいのだけど、エロールが自分自身のことを「人間ではない」と言っていたことから、正体を知った人たちがエロールのことをバケモノ扱いするのはエロールにとっては当然の反応で、ショックだったかもしれないけれど、理解は出来るはず。
それに、ショック受けてる余裕など無いくらいにエロールは疲れていたんだよね。

死を迎えることができるのは生き物だからであって、短いなり長いなり寿命があるからこそ死を得ることが出来る。死を得ることが出来ないから自分は生き物ではない。みたいな定義がエロールの中にはあったのではないかなと思っている。銃で撃てば赤い血は流れるのだけど。
最期、エロールは砂塵となって消えてしまうのだけど、エロールにとってはそれは死ではない。「自分は死ぬことが出来ない」といったことを言っていたので、エロールは自分のことを人間だとは薬を飲まされた瞬間から思っていない。父親の放った言葉の通り「最高傑作」であって、人間の器を持った「何か」だ。

周りの人たちの前で銃で身体を撃ち抜いても死なない姿を見せつけたのだけど、多分その様子から察するに、今まで不老不死になってしまってから幾度となく死ねる方法を試したのではないかと思った。その結果、何をしても死ぬことが出来ないことが分かってから、途方もない長い年月を過ごしてきたと思うと途方もなく寂しい。

不老不死となってから最愛の女性と出逢うまで200年近くあるのだけど、その間にもきっと大切な人と出逢っては別れてしまうということを繰り返してきたと思う。

フリーダやフェルディナンドに逢いたい、と気持ちを吐露するところがすごく悲しかったけど一番好きな場面。あとは子孫の方のフリーダにレシピを暖炉に捨てられて燃やされたときに「よくやった。」っていうセリフだったり「もう、疲れた。」っていう言い方もすごく好き。

『不滅の棘』ってフレーズ的にバンギャ心にクリーンヒットで、どういう意味が込められているのかなとは気になってて、それがフリーダと息子フェルディナンドを愛して幸せだった記憶が棘となって心に突き刺さっていて苦しいという意味合いであることが分かったときはエモい…とならざるをえなかった。


主演を務めた愛月ひかるさんはすごく綺麗な人なのだけど、ただ綺麗な人ではなくてどこか翳りのある美しさを纏っているようにも映る。陰鬱した表情がとても似合う。だから寂しさや苦悩を抱えた役に説得力を持たせるし、彼女の持つ雰囲気が作品と上手く融合しているように感じた。

澄輝さんも相変わらずというか白い衣装の相乗効果でいつもの倍のロイヤルさを放っていたし理知的な雰囲気が素敵だった。
愛ちゃんと並んでると美、美〜〜〜〜〜!!!気品〜〜〜!!!という感じで…ある意味人間ではない。
あとは留依蒔世さんがちょっとだったけど歌ってくれて嬉しかった。ものすごく歌が上手いからもっと本公演で歌って欲しい。

サンクチュアリ大好き芸人だし、愛ちゃんも澄輝さんも大好きだし「不老不死」「虚無」「耽美」「退廃」とかハイ!大好きです!って感じで舞台を観に行かないという選択肢ははじめから無かったのだけど、期待していたよりもとても好きな雰囲気の世界で、救いは無いといえば無いけれど、観たあとに、しんとした寂しさが胸に残って、とてもかなしい寓話を読んだような舞台だった。