ジグザグ!

秋音光の繊細な演技が退廃的な世界に溶け込む/SANCTUARY

 2014年9月、宝塚バウホールで公演された『SANCTUARY(サンクチュアリ)』という作品がある。宙組の愛月ひかるが主演を務め、作・演出は田渕大輔先生が手掛けている。

 16世紀、カトリックプロテスタントの2つの教派による宗教戦争を終わらせるため、南仏の小国であるナヴァールの王子であるアンリ(愛月ひかる)が、ヴァロア朝シャルル9世の妹、マルグリット・ド・ヴァロア(伶美うらら)と結婚するのだが、プロテスタントである人間とカトリックである人間との間で様々な悲惨なことが起き、アンリたちが苦悩する愛憎劇。

 プロテスタントであるアンリがカトリックであるフランス王朝のマルグリット(マルゴ)と結婚して王家に入る形になるのだが、プロテスタントを良しとしないギーズ公によって窮地に立たされる。
 一方、プロテスタントであるコリニー提督という貴族がすでにヴァロア朝の中に居り、シャルル9世に父親のように慕われるのだが、シャルル9世を利用していることが判明し、激怒したシャルル9世プロテスタントを皆殺しにする命令を下し、虐殺が起きる。追い詰められたアンリに、マルグリットはカトリックへの改宗を提案する。

 この作品の特徴は、まず、暗い。バウ・ゴシックと銘打っているだけある。ゴシックと言えば、麗しい人間でないといけないと思っているのだが、その点は全く問題ない。主人公アンリを演じているのは愛月ひかる。美しく、スタイルも抜群であるため中世の格好が素晴らしく似合う。悲劇に翻弄されていく様子や絶望する顔も美しい。ヒロインは伶美うらら。敵役に春瀬央季と続く。完璧な布陣である。ただ、美しいだけではなく全員が熱演していて、若い座組にも関わらず完成度が高いのがこの作品の良い所だ。

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毎日新聞

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朝日新聞DIGITAL

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朝日新聞DIGITAL


 この作品で悪役を演じるのはシャルル9世の弟・アンジュー公を演じる春瀬央季。調香師に毒を作らせてアンリの母親を殺したり、最後は兄のシャルル9世まで殺すなどの悪事を働くブレずに悪く居続ける男である。見た目が格好良すぎるので許してしまいそうになるが、許してはいけないということに気を付けながら観る必要がある。

 悪い男・アンジュー公に最終的には殺されてしまうシャルル9世を演じるのは秋音光。今回このエントリを書こうと思ったのは、この秋音光について語りたいからだ。
 シャルル9世は、自分の身に恐ろしいことが起きてしまうのではないかと常に怯えているとても臆病な性格である。アンリとマルゴの結婚承諾のサインをしろと母親に言われている場面で、彼は初めて現れる。
 シャルル9世の臆病さに漬け込み、コリニー提督というプロテスタントのオジサンがたぶらかし、良いように操っていく。後に彼が自分を騙して利用していたことが分かったシャルル9世は、近くに居たギーズ公の銃を取ってコリニー提督に向ける。コリニー提督は「臆病で何も出来ないお前が俺を撃てるわけがない」と笑います。確かにシャルル9世は引け腰でパニック状態だが、最終的には黙れ!と叫んで銃を撃ち、コリニー提督を射殺する。
 この瞬間、シャルル9世が壊れてしまう。銃声を聞いて駆けつけた母親に「私がやったんだ!自分の力で!」と笑い、「大変なことになる、プロテスタントの反乱が起きる」という発言に対しては、「その前に殺してしまえばいい」と言い放つ。そこで表情がすっと変わり「殺せ、プロテスタントなど皆殺しにしてしまえ」と叫ぶ。
 その命令通りプロテスタントの虐殺が起きるのだが、場面が変わると膝をつき祈っているシャルル9世の姿が。アンリに責任を取ってもらおうと、ギーズ公はシャルル9世にアンリを殺させようとする。そこにアンリの部下オルトンが許しを請う。そのオルトンの目を見て、シャルル9世が「その目だ、私を憐れむコリニー提督と同じ目をしている」と激昂しナイフでオルトンの目を斬ってしまう。オルトンの絶叫の中、ハッとしたシャルル9世は錯乱する。その後のシャルル9世は、亡霊の幻覚に襲われてますます狂っていき、最期は弟のアンジュー公の手により殺されてしまう。

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朝日新聞DIGITAL


 シャルル9世は、何かあると大きく肩で息をする。これは恐らく極度の緊張状態にあることを表現しているのだと思う。そして彼はいつも視線を斜め下に向けている。そして視線を泳がせる。怖くて人の目を見ることが出来ないために、そのような目線の角度になっているのではないか。喋り方もおどおどしていて、声のボリュームが突然大きくなったり、かと思えば小さくなっていく。言うなれば陰キャである。
 臆病な所作、心を許す表情、錯乱して壊れていく姿がとても悲しく、憐れだった。当時4年目であったという若々しさも、シャルル9世を演じるにあたってプラスの要素になっていたのかもしれない。はまり役だったように思う。本当に素晴らしかった。秋音光を知らない状態で観て贔屓目なしにそう思った。
 サンクチュアリでの秋音光は、繊細で脆く心惹かれる演技をする人だった。この時の印象が強すぎて、秋音光は芝居に長けている人だと思っていたのだが、実際はダンサー要素の方が強い人だったようだ。そして客釣りがえげつない人であった。そして別の公演ではひょうきんであった。まだまだ知らないことが多く、魅力的な人である。
 彼女はこれからの宙組において、ますます活躍が期待される一人だと思う。実際に活躍できる実力を持ち合わせているので、これから注目すべき生徒ということで注目して頂きたい。