ジグザグ!

ジグザグ!

愛するには短すぎる

星組『ドクトル・ジバゴ』

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 20世紀初頭、革命前後の動乱期のロシア。1910年代前半、モスクワの街頭ではロマノフ王朝を倒し、新しい時代を求めようと主張する人々のデモが盛んに行われていた。生きる権利を求める者たちと、力づくで彼らを抑えようとする竜騎兵との衝突は激しさを増すばかりだった。
 幼い頃に両親を亡くしたユーリ・ジバゴは、叔父であるグルメコ家の当主、アレクサンドルに引き取られ、医学の道を志している。共に育ち心を寄せてきた従妹トーニャとの結婚が決まり、未来に思いを馳せる彼だったが、日毎に混乱していく街の様子に不安を抱いていた。詩人としての才に長けたユーリは、貴族としての誇りを胸に、古き良きロシアの息吹を自身の詩に綴りつつも、今や国を支えているのは多くの労働者であり、貴族が安逸を貪る時代は終わったと悟っていた。
 ある夜、スヴェンチツキー伯爵邸で開かれたパーティでは、晴れて医者となったユーリとトーニャの婚約が披露された。人々と杯を交わす中、客の一人、弁護士のコマロフスキーが拳銃で撃たれる騒ぎが起こる。彼を襲ったのは洋裁工房「アマリヤ」の娘、ラーラ。彼女には革命派の学生でパーシャという恋人がいた。母、アマリヤのパトロンであるコマロフスキーにパーシャのことを知られたラーラは、母に告げると脅され執拗に関係を迫られたのだ。一方ユーリは、傷を負ったコマロフスキーの手当をしながら、彼に見覚えがあることに気付く。彼こそ、ユーリの父を騙し死に追いやった男だった。
 1914年、ロシアは第一次世界大戦に突入。ユーリは、自ら志願しウクライナ野戦病院で多くの負傷者の手当てを行っていた。ある時、ユーリはラーラと思いがけない再会を果たす。

脚本演出 原田諒/演出助手 野口幸作

 

描かれているのはそれぞれの愛

この物語では様々な愛が描かれている。
ユーリはトーニャとラーラを、パーシャはラーラを。ラーラもパーシャのことも愛しているし、ユーリのことも愛している。コマロフスキーもラーラを愛している(と、思う)。

私はユーリのことが好きではない。初めて映画を観たとき、最低じゃんと思った。浮気自体が最低なのに、トーニャは妊娠までしている。しかも戦争の前後で生きることが大変な状況なのに何やってるの?と思ったりもする。
だけど、ユーリは愛に生きる詩人。医者ではあるけれども本質は詩人だ。詩人として死を迎えることから、ユーリという人間は医者の前に詩人だったのだと思う。芸術家だ。普通の人間とは壁というよりは透けた膜を隔てた次元で、普通の人とは違う感性で生きている人間だと思っている。
トーニャやラーラがユーリを愛した理由は分かるような気がする。トーニャのユーリへ注いでいる愛はただ真っ直ぐで包み込むような愛。ラーラは寂しさや翳りのある愛。ユーリは詩人であり詩のように生きる。ユーリが綴る詩が人々を救っていたように、トーニャやラーラにとってそんなユーリという存在が救いだったのかもしれない。

コマロフスキーのラーラに対しての行動も、愛があると私は思っている。出資先の洋服店の女の娘で、小さい頃から成長を見てきた。そんなラーラが年頃になって綺麗な女になり、扇情され脅して強姦する。映画だとラーラにビンタするし強姦したあとに吐く言葉も最悪で、舞台の方がまろやかなくらい。終盤の行動を見るに、歪な愛がそこにあるのかもしれない。

パーシャは、映画版だとラーラへの愛情の強さがあまり感じられなくて淡々とした人だなという印象だった。失脚して逃亡してラーラの元に帰ろうとしていたというのを聞いたときに「そんなに好きだったの?」という感じだった。
舞台版ではラーラのことが好きなのだということが分かるように描かれていたし、何故ラーラの元を離れたのかも説明があったし、舞台版の方が魅力的な人物に描かれている。「二人で逃げよう」とラーラと寄り添ったり、裏切られたと思って去ったり、最期はラーラを求めながら死ぬ。パーシャはストレリニコフに成りきれなかった、という描かれ方がとても好きだ。

ドクトル・ジバゴ』という作品は、決して明るくはない。明るいどころか、第一次世界大戦の前後となる時代背景のためにとても暗い雰囲気で始まり暗いまま終わる。誰かが幸せになるわけでもない。誰もが面白いと感じる話でもない。ロマンはあるけれど、ファンタジーではない。登場人物たちはどこにでも居ると言えば居るような者が多く、強烈な個性を放つ者は少ない。ユーリ・ジバゴという一人の男を中心に描かれる、激動の時代を生きる人たちの人生を少しだけ切り取った物語として観ている。

感情移入が出来ないなら出来ないで良いし、同調も理解も出来ないなら出来ないでいいのではないかと思う。特にコマロフスキーの考え方とか理解できたら逆にヤバイし…。わたしも涙腺がゆるんだ場面はあるけれど、感情移入とかはしていないしほとんどの登場人物に同調してないし…生きてる時代も国も身分も何もかも違う他人のことだから分からない部分があって当然だと開き直ってる。それを前提に、こういうことかなーとか色々考える作業が好きだったりする。

ここまでわたしがずらずらと書いたことは全て「わたしはこう思った」っていうただの感想文なのでフ〜〜〜ン程度で読み流して欲しい!観る人によって色んな見え方や考え方が生まれるのが舞台の面白いところだと思うので!

 

個人的観劇ポイント(第1幕)

まだ観てない人にココを観て欲しい!と挙げていくコーナー

・プロローグでパーシャ(瀬央ゆりあさん)がセンターでデモ隊率いて踊るんだけど、めちゃくちゃ格好良すぎる…好き……瀬央さんのファン、生きてる…?ちなみに上手の階段から降りて、最前列の前を通り下手の階段から舞台に戻る。


・アレクサンドル(輝咲玲央さん)のヒゲおじ力の高さ。テレビ番組に出演していたときに、ヘアカラーが暗い髪ベースに金のメッシュにしてて格好良いなと思ってたんだけど、メッシュを白髪として活かすんだね…なるほど。どうしてこんなにヒゲが似合うのか。

・洋裁工房の場面では、男役の朱紫令真さんがツインテールで女装をしている。ひとりだけ異質感を放っている。笑っていい所なので笑おう。針山に座って痛!!!!!って飛び上がるのが面白い。その後に出てくるコマロフスキー(天寿光希さん)がとにかく渋い。

・パーティーのシーンは劇中で唯一の華やかな場面なのでココで華やか貯金をして欲しい。一瞬で終わるけど…。

・ラーラ(有沙瞳さん)がパーティでコマロフスキーを撃って、洋裁工房に戻り母親のアマリア(白鳥ゆりやさん)に責められる場面で、ラーラがコマロフスキーに無理矢理関係を持たされたことをパーシャも聞いてしまう。崩れ落ちるラーラに寄り添うパーシャがとても良い。

・撃たれたコマロフスキーをユーリ(轟悠さん)が治療するときの天寿光希さんの「ス パ シ ー バ 」の言い方な。

第一次世界大戦に入り、戦争の場面。ガリューイン少尉(麻央侑希さん)率いるロシア軍兵士たちの群舞がとても格好良い!

野戦病院で、痛みに絶叫するロシア軍兵士(天飛華音さん)の絶叫っぷりが凄い。痛いーーーーーってなったよ。

・撤退してモスクワに帰ると、ジバゴ邸はみんなのものになっているので沢山の人が住みついている。テーブルで煙草を咥えながらカードゲームに興じている住人(瀬稀ゆりとさん)がめちゃくちゃ格好良い。オーリャ(紫りらさん)の芝居がめちゃくちゃ良い。

個人的観劇ポイント(第2幕)

・幕が開くと汽車内部の様子から始まる。上段と下段に分かれているんだけど、上段の左から二番目の男(朝水りょうさん)の動きに注目しておいて欲しい。

・ワーシャ(天希ほまれさん)わりと出てくる。まず顔が綺麗。綺麗は正義。嫌味のない青年を好演しているので贔屓の方おめでとう…という気持ち。

・ジバゴファミリーの面倒を見てくれるイイおじさんのサムデヴァートフ(朱紫令真さん)。まだ100期生なのに立派なおじさんすぎる…!とても味があるおじさんを好演している!これだけおじさんが似合うのだから、1幕のツインテール女子が事故るのも致し方ないこと…!

・ストレリニコフ(瀬央ゆりあさん)と赤軍兵の群舞がめちゃくちゃ格好良い!!!この赤軍兵エグい速さの回転してるな格好良いなと思ったら天華えまさんだった。好き…………。

・1幕もそうだけど、バイト祭り。ウォーリーを探せばりに天華えまさんや天路そらさんたちがバイトしている。少人数だとこういうのが楽しい。颯香凛さんや天飛華音さんも目を引く。

・ユーリがパルチザンに誘拐されて戦場に連れて行かれて医者として働かされるのだけど、そこに出てくるパルチザンのリーダー・リヴェーリン(朝水りょうさん)ヒゲが凄い。最高にヒゲが似合う彼にヒゲをつけさせないなんて…と思っていたら2幕でドカンと来た、ヒゲ。そんな朝水さんは顔がとてもいいのだが、芝居がとてもよいので注目して欲しい。

・ラーラの元に帰ろうとしているパーシャが銃殺されるシーンが良い。95期、死に方上手くない?

・全体を通してのことだけど、ヒゲ、マジで、みんな、似合いすぎ。ヒゲが似合わないと星組に入れないのかと思うくらいヒゲが似合う。もしかしてだけど、ヒゲ、直に生えてる?

 

ドクトル・ジバゴはいいぞ!

この舞台のキャストが発表されてから初日まで本当に楽しみでっていうかマジでマジでマジでめちゃくちゃ楽しみにしてて!!!原田先生だし話の面白さは全く期待してなかったから変にガッカリすることもなく(コラーーー!)、とにかくキャストがめちゃくちゃ良いということだけで楽しみだったし実際楽しいから!キャストが良すぎて!初日と2日目を観たのだけど、初日からこれだけの舞台を観せてくれるんだと思ったし2日目も良かった!

わたしは星組の生徒は上手いと思っている。『阿弖流為』のときもそうだったのだけど、「星組なのに上手い」「星組じゃないみたい」といった感想を見かけると「違うの!元から上手いの!」って反論したくなる。本来持ち合わせてる実力を発揮できる場があれば発揮してくれるんだよー!って分かっているかのように言うけど個人の感情なので許して…。褒めているようで残念な感想がなぜ上がってしまうのか、劇団関係者はよく考えて欲しいなぁなどとインターネットの隅っこでオタクはつぶやいてみる。

手堅いキャストで編成された座組を基盤に瀬央ゆりあさんが活躍していてすごく良い!瀬央さんについてはもっと観劇回数こなしてから改めて書きたい。

ヒゲおじさんたちをいっぱい観たい人も、宝塚っぽくない宝塚の舞台を観たい人も、堅実で重厚な上手い芝居の星組を観たい人も、とにかく星組生が活躍しているのを観たい人も、カッコイイ瀬央ゆりあさんを堪能したい人も、今しかない。『ドクトル・ジバゴ』を観てくれ。