ジグザグ!

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愛するには短すぎる

宙組『神々の土地 〜ロマノフたちの黄昏〜』

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 1915年、冬。ロシアでは民衆の不満が鬱積しテロルが頻発、革命の気運がかつてないほどに高まっていた。
 皇帝ニコライ二世の従兄弟で将来を嘱望される有能な軍人ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフは、皇帝一家の身辺を護るため、ペトログラードへの転任を命じられる。
 ペトログラードでは、ラスプーチンという名の怪僧が皇后アレクサンドラに取り入り、政を思うままに操っている。民衆の憤懣を鎮める為にはロマノフが前線で身を挺して戦うべきではないかとペトログラード行きを躊躇うドミトリーに、皇帝一家の相談相手となり事態を好転させて欲しいと願う女性がいた。皇后アレクサンドラの妹で、故・セルゲイ大公の妃・イリナである*1。肉親のないドミトリーがその屋敷に身を寄せていたセルゲイ大公は、皇帝を狙ったテロルで命を落とした。セルゲイ亡き後もロマノフの大公妃として生きるイリナの許で過ごしてきたドミトリーだったが、彼にはイリナへの秘めた想いがあった。イリナの望みを聞き、ドミトリーはモスクワのセルゲイ大公邸を後にする。

 


激動の時代に翻弄されて生きていく人や、流れに乗って生きていく人たちの、それぞれの生き方を傍観者として眺める、重厚で濃密な物語でした。

皇女オリガがひたすら切ない物語

ツィンカというジプシー酒場にドミトリーに連れて来られたとき、ほんの少し前までは今まで外の世界を「あなたたちが居る汚れた世界」と思っていたし、実際に「そんな世界に出るわけない」と外の世界の人間であるフェリックスたちに向かって言い放っていたけど、民衆たちは自分の親の政治によって飢えていて、政治に対して怒りを抱いていることや自分たちが置かれている状況を実感して「どうすればいいの」と戸惑っていて。

最後も母親のアレクサンドラに「国民に譲歩しなければわたしたちは終わってしまう」と訴えても、外の世界との融合を拒んだ母親の心を優先して、破滅するであろう自分たち一家の未来を覚悟して、母親と共に舞台から消えるのだけど、「わたしたちが助かる最後の船だ」と言っても母親には響かなかったのがやるせなかったです。

恋心を抱いていたドミトリーと結婚することになったけれど、ドミトリーがイリナを愛していることを目の前で見て悟ってしまった上に、結局結婚が破談になったり、最期の描写は無いけれど銃殺されて亡くなってしまうので、オリガのことを考えるとひたすらに切なくて、オリガに肩入れしながら観ると、とても哀しい気持ちでいっぱいになってしまう。この物語で、わたしが一番好きなのはオリガでした。

フェリックスの愛は一体何なのか

フェリックス・ユスポフ、ロシア帝政で最も裕福な一家ってググったら書いてありました。そして写真を見たらとてもイケメンでした。ドミトリーも写真を見たらとてもイケメンでした。なるほど!(???)
同性愛者で、ドミトリーとも関係があったとかないとかで、たしかに、ねっとりとフェリックスの手を包んだりとか、母親に「永遠の片思い」と言われたりとか、友情以外の何らかの感情があったようにも見えるのだけど、どう思うかはあなた次第、といったところかもしれません。

何を成し遂げたかではなくどう生きたか

ロシアを守りたいという気持ちがありながらも、自分の気持ちに嘘をつけずにオリガのことを愛していると言えなかったりと、結果的にドミトリーは何も得ることは出来なかったように見える。「心の中に別の女性が居る」とラスプーチンに見透かされて、ニコライ二世に「本当の気持ちを言ってごらんなさい、君の言葉を信じるから」と言われて、 その時点でラスプーチンの言ってることを否定して「愛しています」と言ってオリガと結婚していれば未来は変わったのかもしれないけど、彼が実直な人間であることや、葛藤している様が見てとれたので嫌いにはなれなかった。
解釈絶対許さないマンの上田先生は「何を成し遂げたのかではなく、どう生きたか」を描いているとのことです。
ドミトリーのそれまでの心理描写を汲み取るのが、ドミトリー個人の物語を観るポイントだと思って観ていました。

 

愛月ひかるのラスプーチン

今回話題になったのは、愛月ひかるさんが演じられたラスプーチンだと思う。ネットに上がった写真を見て驚いたし、観劇していたお子さんが泣いたとかレポも見たし、すごいすごいと言われていて、どれだけすごいのかと思っていたら本当にすごかった。
散々言われてると思うけど、愛ちゃんのド根性がすごい。
タカラジェンヌという盾を捨て、鎧を脱いで、美しく見せるということをかなぐり捨てて、一役者として体当たりで挑んでいる姿に尊敬の念を禁じ得なかった。奇抜だからこそすごく見える、という単純な要素もあると思うのだけど、それにしたってすごかったし、愛ちゃんはそれまでのインタビューなどの発言から 細かく自分の中で役を作り込んいる人だという印象があるし、今回もとても緻密に役作りをしたと思うので、叶うならば愛ちゃんの副音声で円盤の映像を観たい。せめて宝塚グラフの「副音声」のコーナーでやって欲しい。感じ方はそれぞれで良いと思うんですけど、演者の気持ちを知りたい派。
ラスプーチンがマントを広げる様は、不穏な気配が広がっていくようで大変不気味でしたし、暗殺されたあともずっと近くで息を潜めていそうで、ラスプーチンは肉体が無くなってもこうして人々の中に巣食った自分の存在は生き続けるって分かっていたのかもしれない。

 

コンスタンチンの儚い恋

ツィンカという酒場で、コンスタンチンがラッダという女性にいつもバラの花束を贈るのだけど、ラッダの弟ゾバールが「生きていくために必要なのはパン、パンを買う金だ。花なんてもらっても腹の足しにならない。金をやればすぐにお前の女になる。貴族の恋愛流儀に姉貴を巻き込むな」といった感じで罵倒するんだけど、ラッダだって確かに貧困生活で苦しんでいるけど、コンスタンチンからお金なんて要らないんだよ…!花の花束を貰って嬉しいんだよ。
コンスタンチンだって、ラッダにお金が必要なことくらい分かってるんだよ。でもお金をあげることが愛じゃないんだよ!ぶっちゃけコンスタンチンが純真無垢な雰囲気を出しすぎてい幼い恋愛をしているようにも見えてしまうけど、酒場以降の場面ではもう一線越えた感ありますね。いや、だって、大人だもの!
ゾバールの言ったことは理にかなっていて正論ではあるのだけどただの一般論であって総意かのように言っているのがダメだぞ。
ラッダとコンスタンチンの感じることはほぼ一緒、ゾバールとは違う。ゾバールは恋愛している心の余裕も時間の余裕も無かったと思うのですが、まあ、あれだ、姉貴の恋愛には首突っ込むなって感じで…笑
最終的にはゾバールをラッダが庇ってしまったためにコンスタンチンの手によってラッダが死んでしまうっていう恋愛の終わり方をするので救いがありません。悲しいです。

 

ボルシェビキのゾバール

桜木みなとさんは見た目は可愛くて明るい雰囲気だし、そういう役も演じられているけど、わたしは『王家に捧ぐ歌』の博多座公演で演じられていたウバルドの演技が大好きで、この人は明るい役よりもこういう業や使命を背負った陰の役の方が好きだと思っていました。だから今回、帝政に立ち向かうボルシェビキとしてテロルを起こしたり奮闘しているワイルドな役でとても嬉しかったんです。観たかったんですよこういうずんちゃん!髪型も格好良かったですよねアッシュ系のカラーにゆるっとした長髪で…大正解です…。 

 

最後に救いを感じる

ロマノフたちの黄昏というサブタイトルにあるように、終焉に向かっていくロマノフを見届ける物語で寂しさもあるのですが、最後の場面はロシアの雪原に今まで出てきた人たちがおそらく全員出てくるんです。
貴族たちのものでもなく、民衆たちのものでもない神々の土地に、その時代をそれぞれ懸命に生きた人たちの魂が集まっている様が描かれるのですが、そのときにやっと、観ている側としては救われました。
ヒロインふたり(ラッダも含めると3人)亡くなっているので悲恋ですが、この最後の場面で救われる。笑顔のオリガとか、イリナとアレクサンドラの様子を見れて救われる*2
この描写がとても好きで、とても美しい終わり方だった。そしてこの場面の、桜木みなとさんによる影ソロが素晴らしくて本当に大好きです。

それぞれの役者の中で解釈違いが起きないように、 台本には上田先生による設定がびっちりと書かれていたようなことを聞きました。どの役に対しても細部までこだわって丁寧に作られたのだろうなと観ていても感じましたし、ご丁寧にプログラムもちゃんとこの場面は何年のいつ頃って表示されているんですよね。解釈違い絶対許さないマン

今回の宙組の演目は、とても神経をつかうので観たあとに疲れるお芝居でしたけど、行間を読むことの楽しさを感じるものでもありました。
宙組に所属している役者の方たちが持っている上品な雰囲気やそつの無さによって、このような難しい演目もこれだけ美しく重厚さを失わずに仕上げることが出来たのかなと感じました。セリフや描写のひとつひとつが美しかったです。

千秋楽もライブビューイングで見届けたのですが、晴れやかに舞台を去るまぁ様が素敵で、挨拶のときも袴じゃなくて、まぁ様のスタイルが活かされる黒燕尾で嬉しかったです。もうまぁ様が宝塚に居ないと思うととても寂しいのですが、まぁ様によろしく頼まれたことですし、新生宙組も楽しみに公演を待っていようと思います。


*1:イリナは架空の人物。

*2:ラスプーチンと聖痴愚たちがめちゃくちゃ楽しそうに走ってる様には笑う。めちゃおもろかわいい。