感想:舞台『ウエアハウス 〜Small Room〜』

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取り壊しが決まった教会の地下にある"憩いの部屋"で、地域サークル、「暗唱の会」のメンバーが活動を行っている。
活動の内容は、各自がそれぞれ好きな詩や小説、戯曲などを暗記してきて、メンバーの前で暗唱するというものである。
近くの出版会社で働く男もそのメンバーの一人である。だが、男はこれまで一度も暗唱を披露したことがない。
アメリカを代表するビート派詩人、アレン・ギンズバーグの長編詩『吠える』をただひたすら練習しているだけである。
一人になると、ぶつぶつと『吠える』をつぶやく。そこへ、若い男が現れる。
いきなり英語で話しかけてきた若い男に興味を引かれ、ふたりは話し始める。質問ばかりする若い男に戸惑いながらも、いつしか若い男のペースに巻き込まれていく──



まずはじめに、わたしは金曜日の夜は職場の仲間や友人たちと飲みに行ったり彼氏とデートなどという華やかな生活とは真逆の喪女ライフを過ごしており、金曜日の夜だけ放送しているファミリー劇場チャンネルの『ほんとうにあった!呪いのビデオ』を観るのを楽しみにしている。

しかしハチャメチャにビビりであるため、金曜の夜は絶対に眠れなくなり、一緒に起きてくれている飼い猫に頼ったり、ピクシブを漁ったりして気を紛らわせてから眠る。お化け屋敷は入れない。肝試しもやったことが無い。写真の専門学校に通っている友人に頼まれて撮影のために一緒に自然豊かな道を歩いていた所、神社が見えただけで絶叫してダッシュしたようなビビりだ。そんなわたしであるから、この舞台を観劇している最中は、ハチャメチャにビビり倒していた。ビビり倒していたので、ぶっちゃけ、かなりの部分を覚えていない(死ーーーーン)。

普通のサラリーマンであるエノモト(佐野瑞樹)が、取り壊しが決まっている教会にいるときに、シタラ(味方良介)という男がやってきて、エノモトと世間話を始めるのだが、その時点で会話に違和感を覚える。会話はしているが、引き出せていることはエノモトのことだけで、ひたすらシタラは質問しているだけだった。その時点でシタラが薄気味悪くて怖かった。シタラが自分のことを話すのはもう少し後だったと思う。

お互いに免許証を見せ合うのだが、シタラは少し見ただけで完璧にエノモトの個人情報を丸暗記していて、生年月日だったか住所だったかを空で言ってみせる。

このときに急に場が止まってめちゃくちゃ大きいノイズ音が鳴って、超ビビった。まじでまじでビビって心臓バクバクしてしまい、これがわりと序盤であったため、その後はずっとビビり倒す羽目になり記憶が無いという結果に繋がっている…メソ…。

途中で区役所かどこかで働いている公務員のテヅカ(猪塚健太)が現れる。テヅカは公務員なので、本来は教会を取り壊すことを進める側なのだが、どうにか上手い方法がないかを模索してくれた、エノモトにとっては頼もしい同志だった。
エノモトとテヅカはツイッターだって相互フォローしているし飲みにも行っているとシタラに言っていた。シタラはそれを何とも表現できない顔をして聞いていた気がする。

シタラとテヅカは反りが合わない。
テヅカが得意気に、「ホワイトノイズ」という、ノイズの中から必要と思う音を拾えるようにする方法について語っていた気がするのだけど、興味深そうにその話を聞いて言われた通りにホワイトノイズを聞けるアプリをダウンロードするエノモトに対して、シタラは面白くなさそうに聞いていた。シタラはエノモトに異論を展開するのだが、いわゆる論破だった。その瞬間から、テヅカの態度が変わる。飄々と明るい風だったテヅカはイライラし始める。テヅカにとって、エノモトは従順というか、扱いやすくて楽だったのに対して、シタラは自分の考えがあってハッキリ論破してくるからイヤになったんだろうな。

シタラが飲み物を買いに行って、テヅカとエノモトがふたりきりになると、「やっぱり移転も無理になったんで関係者に上手くいっといてください!めんごっす!」のようなノリでテヅカはエノモトに言う。
その時点でエノモトの中では同志ではなくなる。テヅカは「また飲みに行きましょうね」と言うが、もうそもそも社交辞令のような気もするし、エノモトも「はぁ…」と完全に脱力した返事をする。共通の目的があったから築けていた人間関係が目的の喪失により急激に希薄になる所がとてもリアルだった。

最終的には、どんどんシタラが自分の話をするごとにより薄気味悪さが強くなっていく。通り魔が近くをうろついているかもしれないといった情報が入ることで、シタラが通り魔かもしれないという気持ちにこちらがなってしまうし、住所を覚えていることで自分の家族の身に何かが起きてしまうかもしれない恐怖感などが充満して場の空気が緊迫していく。エノモトはどんどんシタラとの空間が耐えられなくなる。

シタラは自分の話を聞いてもらいたくて執拗にエノモトを引き止める。その話だって、自分の話といっているのに自分を取り巻く環境における人物の話ばかり。
シタラは離婚した元嫁とのことを話したときに、全然夫婦の会話がなくなってしまって、猫を飼ったら猫を通してしか話してこなくてなって、そのうちニャア、ニャアとしか聞こえなくなったんですよって言ってたんだけど、普通にシタラの頭がおかしいだけだよなって思った。離婚してくださいと嫁から言われて、会話がなくなっただとか文句を言っていたのにどうやら裁判を起こしてまで離婚にすぐに応じなかったみたいだしよく分からない。

エノモトが奥さんに買ってもらったジャケットを着てもいいですか?と言って羽織ってから全然脱ごうとしない。
途中で教会の外で犬が吠える。シタラは外に出ていく。フラグやん…!!!とわたしは心の中で泣いた。犬の鳴き声が止まる。ほらーーーー!戻ってきたシタラは白いTシャツを真っ赤な血で染めていた。ほらなーーーーー!「ノイズは元から絶てばいい。ジャケットを丸めて噛みつかせて、喉元をナイフで掻っ切る」とか言っていた。犬に暴力ふるうとか、ディオ様かよ…。

シタラは少し暴力性が増していった。エノモトに対して、自分が買った家なのに嫁と生意気な娘に居場所を奪われてこんな所に居るだとか、エノモトに対して事実(と思われる)ことをぶつけていく。
シタラはそのうちエノモトにナイフを向けて「わたしを、殺して、ください、って言え」って命令してたけど、エノモトは言わなくて、小競り合いになって、ナイフがエノモトの手に渡ったときに「殺せ」と今度は自分を殺せと命じていた。結局、エノモトはシタラを殺せなくて、シタラはガッカリしたような顔をして去っていった。
暗転してから、椅子に座っていたのはエノモト。入ってきたテヅカに、初めてシタラと逢ったときのように、It's very hot today isn't it? と英語で挨拶をして終わる。


シタラ、笑ゥせぇるすまんの喪黒福造みたいな感じなの?(究極に頭が悪い感想)

頭が悪いからラストの意図が分からなくて泣きそうです。何で暑くなったの…?何でエノモト、英語喋ったの?エノモト、喪黒にどぉーーーーん!ってされたから狂ってしまったの?シタラになってしまったん?HPに書いてあった、「究極の愛の物語」の意味が分からなかった。ずっとビビってたしな…。演出家がこの感想を万が一目にしたら泣いちゃうよね…こんなバカに観られてたんだって…。ユルシテ…。


むかしのかすかな記憶をたどりに書きたいことがある。
フランツ・カフカという作家の『変身』という小説がある。家族のために働いてた青年が、ある日目覚めたら巨大な虫になっていたという話なのだけど、なぜ虫になってしまったかは書かれていないという超不親切な作品。

虫になった青年はどんどん思考まで虫になっていくし、家族からはいためつけられて最後には死んでしまう。青年が働いて生計を立てていて、家族にお金の面で寄りかかられていたのに、青年が死んだあとは家族がそれぞれ自立して、青年って一体…(キートン山田)みたいな後味が残る。

なぜ虫になってしまったのか、何か精神的なものが影響しているのか、とかそういう考察は結構あると思うのだけど、理由はないという解釈があって。

2つの平行した世界軸があって、ひとつは自分が居る世界軸で、もう片方はこっちの世界軸では想像できないような知らない世界軸。
本来は交差することはないのだけど、突然片方の世界軸がこっちの世界軸に入り込んでしまったために、青年は虫になってしまっただけ。っていう、ただただ不条理なだけです、という考え方があって。
何かこの辺りの解釈はフランツ・カフカ実存主義だからだとかいうのも絡んできてものすごく厄介だしこれ以上バカが露呈するのはしんどいので書かないけど、もしもあのあとエノモトが狂ってしまって家族の元から離れたとしても嫁や娘は自立して生きていけると思うし、そう考えるとエノモトも『変身』で虫になってしまった青年のように、シタラが現れてしまったことで突然状況が変わってしまった、不条理の被害者だなと思って。笑ゥせぇるすまんも不条理な話だし。

三人の役者さんたちがそれぞれのタイプに分かれた人間を演じるのが物凄く巧みで感嘆させられるばかりだった。味方良介さんはとにかく薄気味悪くてすごかった。とても頭がいいのだろうなと思った。『リメンバーミー』でドアに頭ぶつけて気絶していた人とは別人のようだった。
そこに味方さんの姿はなくてシタラそのものだったから、めちゃくちゃ苦手になりそうになってしまって、いやご本人は自炊が好きでルドルフやりたい人…サイコパスじゃないんだよ…きっと…って思ってたのに見た目がエゲツないものを召し上がっていて怖かった。

 

シタラがとても怖かったので、シタラの影に怯え続けることがないように、いつか機会があれば、可愛かったり明るい役を演じている味方さんのお芝居を観ようと思う。




ウエアハウス 〜Small Room〜
脚本・演出 ▶ 鈴木勝秀

公  演 ▶ 2017/10/8〜11/7
劇  場 ▶ アトリエファンファーレ高円寺