感想:舞台『オーファンズ(2017)』

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フィラデルフィアの廃屋で暮らすトリート(細貝圭)とフィリップ(佐藤祐基)の孤児兄弟は、凶暴な性格の兄トリートが臆病な弟フィリップを外界に出さずに支配し、トリートの稼ぎだけで生活をしていた。
そこに、やくざ者のハロルド(加藤虎ノ介)が迷い込んできて、彼もまた孤児だったことから、3人に疑似家族のような日々が訪れる。
ハロルドはかつて自分がされたことを返すかのように、若い二人にさまざま事を教えていく。フィリップの中でトリートの存在は少しずつ薄れていき、やがてトリートは孤独感にさいなまれてしまう。


孤児としてふたりきりで生きてきたフィリップ兄弟は、親も居なくて学もなくて、頼れる大人も周りには居ない状態は過酷な環境で生きてきたと思うけど、状況を打破するにも、そのための知恵やお金や周りの協力が得られないから、ずっと同じ環境で生きるしかなくて。

トリートは弟のために盗みを働いて生計を立てていて、兄のおかげで生きることが出来ているようで、でも見ていると兄が弟にめちゃくちゃ依存してるのが分かりやすく表現されていてよかった。弟のフィリップよりもはるかに幼児性が高い…高身長の大人で幼児性が高いとかおっかないですよね。
何も知らなくて何も出来ない弟が自分のそばから離れることはないと思って横暴に振る舞ってるけど、弟に変化が起きないことを毎回試してるようにも見えた。変化が起きないことで安心を得る、みたいな。自分の知らない弟を極端に恐れていたのがとても印象的で、大きな声を上げて怒鳴って乱暴に振る舞う姿が痛々しいし子どもっぽいし、お兄ちゃんであるトリートが三人の中でいちばん生きづらそう。

トリートは現代風で言うと、モラルハラスメントに近いのかなと思う。
フィリップはそんな兄を受け入れてくれる優しい弟ではあるけど、本当は優しいだけではなくて、無知だから受け入れてるだけであって、本質的にはハロルドの言う通り聡明な人だと思うので…本当はハロルドに逢うよりも前からこの状況がおかしいことは感覚レベルでは感じていて薄々分かってたけど、きっかけと知識が無くてトリートの言うことをただ聞くしかなかったのかなって。トリートに隠れて文字の勉強をしているところから、何となくそう思った。
ハロルドから生きていく上で大切な知識をひとつひとつ得て、実際に自分の身体で体験していって、自分の住んでいる家の住所も分かって、自我が芽生えて自分の頭で考えることが出来るようになって、やっと「何も教えてくれなかった、ひどい!」って思って言えるようになった姿を見て、正直ホッとした。

トリートはこんなクソみたいな生活から打破したいとどこかで思ってて、フィリップは自分の頭で行動したいとどこかで思ってて、でもきっかけが無くて何も変わらない日々だったけど、突然現れたハロルドという存在がきっかけで動きだしたわけだけど、ハロルドが現れなかったらずっとこのままだったのかな~。

このままじゃなくても、フィリップが兄からの束縛をおかしいと思って自己主張できるようになるまでには ハロルドが居ると居ないじゃ全然かかる時間が違うと思うので、ハロルドが現れてくれて良かった。

ハロルドのことがすごく好き…でもこの手のタイプは死んじゃうんだろうなって思ってたから、 やっぱり死んじゃってすごく悲しかった…。
同じ孤児ってだけで何でこんなに愛情を注いでくれるのこのイケオジは…!自分の生い立ちを重ねるにしても優しすぎるから!
自分が得た知識とか経験を他人に共有するのって一種の愛だと思ってるから、愛情豊かなイケオジだなって…
ハロルドはハロルドで人間関係は希薄で孤独な人だと思うので、トリートとフィリップと疑似家族のように暮らすことで自分がちょっと欲しいと思っていただろう濃いめの人間関係を築くことが出来て幸せだったんじゃないかな…
きっとロクな死に方はしないだろうってハロルドは思ってたと思うけど、裏路地で死に絶えるじゃなくて、大切に思ってるトリートとフィリップと暮らす家で、ふたりの前で死ねて良かった。

フィリップはハロルドからの愛情を素直に受け入れることが出来ていたけど、トリートは最後まで受け入れることが出来なくて、ハロルドの死の間際に「おいで」って言ってもらえたのに行けなくて死んでから甘えて縋っていたのが切なかった。
死なないでくれって泣きわめいるトリートを抱きしめてあげたフィリップの成長に泣きました…
生活を支えていたのはお兄ちゃんだったけど、精神的にお兄ちゃんを支えていたのは弟の方だったよね。求めていた愛情深い大人が現れたと思ったのに失うことになって本当に可哀想なのだけど、きっと前よりは違う生き方を模索できるだけの知恵を得て愛情を注がれるという経験を得たので、兄弟は大丈夫だろうなって…ずびずび

東京初日に観に行ったんだけど、終演後に細貝さんが舞台写真配ってお見送りしてくれるという催しがあって、さっきまで死なないでくれって泣きわめいていた人に何てことをさせるんだ…と思いつつちゃっかりお写真頂いてお見送りしてもらいました…。
細貝さんもお客さんもさっきまで泣いてました!って目をしていたので若干、ハロルドの葬式の受付みたいでした(コラーーー)。

終わってからもしんどいなぁ…ってなったんだけど、フィリップがバスに乗ってた黒人の真似してたシーンがめちゃくちゃ面白かったので、そのシーンを思い出したりして耐えました。よくあれ他の二人笑わなかったなすごいわ。

日程的に厳しいなーって感じだったんだけど無理矢理予定入れて観に行けて本当によかった。 出演されていた三人の役者さん本当に熱演で素晴らしかったです。

観たことがある役者は細貝さんだけだったんだけど、武士の役とかミステリアスな犯罪者とかしか観たことないし、舞台以外だと面白かったりニコニコしてる印象があったので、ここまで脆い人間を演じている姿を初めて観て、しかもエンタメ色というよりは演劇色の方が強い舞台だったので新鮮でした。めちゃくちゃ良かったのでこういう舞台にたくさん出て欲しい。
そしてハロルドに惚れたので再演があればまた観に行きたいです。

オーファンズ
上演台本・演出 ▶ マキノノゾミ

兵庫公演 ▶ 2017/10/14〜15
劇  場 ▶ 兵庫県立芸術文化センター
東京公演 ▶ 2017/10/19〜22
劇  場 ▶草月ホール