感想:花組『ハンナのお花屋さん Hanna’s Florist』

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ロンドンの閑静な高級住宅地ハムステッドヒース、その一角に一軒の花屋があった。
デンマーク人のフラワーアーティスト、クリス・ヨハンソンが営むその店の名は、“Hanna's Florist(ハンナのお花屋さん)”。
自然との調和に包まれ、地元の人達からも愛されるその店には、心癒される穏やかな時間が流れていた。
ところが、ある日、クリスの作品が栄誉あるフラワーコンペティションに入賞したことで、大きなビジネスチャンスが訪れる。
トップフローリストとしての成功を目指すか、それとも・・・?
そんな時、クリスは、仕事を求めて東欧からやって来たミアと出会い、次第に、自分の心の声に気付かされていく。
故郷デンマークの森への郷愁、そして“Hanna's Florist”という店名に込められた想いとは・・?
世界中から人が集まる街ロンドン、そして自然豊かな北欧を舞台に、21世紀を生きる我々が求める本当の幸せ、人生の豊かさを問いかけるオリジナルミュージカル。

 

ガッツリネタバレします。

クリスとミア

自分の生まれた国、育った国、生きてきた文化という「ルーツ」を主軸に生活を送れているか送れていないかというので生きやすさや生きづらさが違うのかな、ということと、生きていく中で心の拠り所を何にするのかを描いているのかな、というのが全体を通して観て感じたこと。

主人公のクリスは、生まれ故郷であるデンマークに自分のルーツがあって、デンマークに生活の地盤を築くことが一番自分らしく生きることが出来ると思っていて、本当はずっとデンマークで生きていきたかったのかもしれない。

でも父親との確執(とまではいかないけれど)とかあって、ロンドンにひとりでやってきて、お店を開いてがむしゃらに頑張って自分なりの生活基盤を築いて今に至っている。

「ロンドンのいい所は居場所がここじゃないって思っても生活できることだ」

みたいな的なセリフがあったのだけど、ロンドンに生活の根を張ってはいるものの、心の拠り所としては認めていないのかなと。

ミアはクロアチアからロンドンに新しい人生を求めに来たわけだけど、ロンドンの都会さに右往左往してそれでも頑張ってたけど、同僚のセルビア人に意地悪されたり移民局に追われてしまったりと苦労が絶えない女性。
職を求めてた女性との会話で住む場所すら無いことも分かったときはなんとも言えなかった。
驚くほどに出演シーンが少ないのだけど、出ていない間、生きるために必死だったのだろうということは想像に容易い。

ミアが住んでいたクロアチアは独立に際して戦闘があったりと大変だったみたい。
今回の話とは関係ないけど、フランツカフカという作家が居るのだけど、彼もプラハという場所にユダヤ人として生まれて、国によるアンデンティティの確立に苦しんでた、そのことが作風に表れているっていうのを勉強したことがある。
フランツカフカが生まれたのもプラハ、東欧だったので、ミアを見たときに思い出した。

クリスがミアに優しくするほど、ミアはその優しさで自分が壊れてしまいそうだと拒絶するのだけど、甘えちゃいなよ!って背中押したかった。
自分は幸せになってはいけないんだってクリスに言ってたけど、幸せになっていいんだよお…
でもミアは自分のせいで大事な弟を失ったと思っているから、幸せになることを拒絶する気持ちがすごい分かる。
わたしは弟が大好きだからめっちゃ分かる!自分と弟どちらかしか助からないなら絶対弟に助かって欲しいと思ってるしミアの身に起きたことに自分を投影したらしんどかった。あれだけミアがずっと罪の意識を抱えて生きて来たことには共感するんだよね。
ミアと弟はすごく仲が良い姉弟だったんだと思う。
わたしは自分に置き換えたらそりゃそうなるわな…って思ったけどお芝居的に観る人が観たら、いつまでもうじうじしててイライラするケースもあるかもなぁ。

クリスが時間を掛けてミアの心を解きほぐしていく過程が、クリスがブログに載せるデンマークの写真や実際のクリスの服とかで表現されてたけど、結構ねばったな!?笑
イケメンだから許されるけどふつうだったらストーカー気質じゃない!?「恋人には1時間に1回メールしちゃダメですよ」とか従業員に言われてたけど、ヤバいwwwwwwwってなったから!
いやでもよく頑張ったよクリス。ミアが自分も幸せになりたいって思えるようになるには時間が必要だったと思う。クリスとミアが結ばれて本当に良かった…

 

クリスの父親アベル

クリスが居る家庭と本拠地での家庭の2つを並行するっていう、まぁ道徳的にはどうなの!?って感じもしたしそういう人間は大嫌いなんだけどアベルを演じてる芹香斗亜さんが最高にカッコイイので許した…イケメンは正義

特筆すべきところは、大人になったクリスとアベルがやり取りをするシーンが一切無いこと。アベルの臨終間際にデンマークに帰ってきたクリスの顔を見て、クリスを待っていたかのように息を引き取ったということがクリスの叔父のセリフから分かるけど、臨終のシーンは無い。葬儀が終わって、叔父からアベルの真実が語られる。

アベルのことを語るにはアベルのことをガッツリネタバレしてしまいたいのでします。

  • アベルデンマークの名門貴族の息子で、親は会社を経営していた。

  • 本当に愛すことができると思ったハンナ(クリスの母)と田舎で恋に落ちて子ども(クリス)を授かったけど、アベルはどうしてもコペンハーゲンで生きていかなければいけない。ハンナはコペンハーゲンでの暮らしは難しいと思い拒絶。
    アベルは許嫁と結婚して2つの家庭を行き来することにした

  • アベル父親から会社を継いだとき経営が傾いてたから非情な判断を下したりしてたんだけど、解雇された従業員の逆恨みで、ハンナの両親たちがたまに働いてた工場に逆恨みで放火されて、助けに行ったハンナが死んでしまう。
    そこからアベルは自分を一切殺して生きていくことにした。

  • 実はアベルは孤児だった。夫婦の間に子どもが出来なくてアベルを引き取って跡取りとして育てたのだけど、10年以上経ってから実の子が出来てしまった。
    でも両親は分け隔てなくアベルを育てたしみんなアベルが跡取りでいいと思ってたのだけど、アベルは血の繋がっていないのに継いでいいのか悩んでいた。
    アベルは育ててくれた両親の恩に報いるためにも会社を継いで経営を立て直すことを決めた。それがハンナを失うことにも繋がってしまった。


アベルのルーツは上記のような感じなのだけど、いやアベルしんどすぎるのでは?!
会社を継ぐということを選ばずにハンナと田舎で生きる決心をしていたらハンナを失わずに、そしてアベル自身も自分らしく生きることが出来たと思うけど、その状況なら普通のひとは現実的な方を選ぶ。会社継ぐよね。アベルは当然のことをしたし、何もかも捨ててハンナとクリスと田舎で生きる方法を選ぶのは、大人としては無しかなって…

クリスでは父親のことを許せないしどう接していいか分からなくて、会社を継ぐという道を選ばずにロンドンで生きることにしてデンマークには全然帰らなかったんだけど、結局アベルが危ないという知らせが入ってデンマークに帰って、そこで叔父に父親の真実を教えてもらえて、父親の死によって父親の出自も含めて自分のルーツを再確認して新たに生きる道を拓けたので、そこは良かったね…って本当に思いました。

ハンナを失ったあと、アベルがどのように人が変わって生きていたのかが全く出てこない。とにかくミアとアベルの出演シーンが少ないので想像で補完する必要があったので、ほんの少しでいいから公式として描いて欲しかったな…想像しろってことかな…

公演解説に「ハートウォーミングなひととき」とか書いてあったけど、そんなにハートウォーミングか!?
わたしはちょっとシリアスめに観てしまってて、冒頭にも書いたけど、「生きる場所として根を張りたい場所はここではない」と思いながらも懸命にその環境で生きるひとたちの奮闘記というか…そんな感じで結構真剣に観ちゃったよ!ちょいちょいハートウォーミングではあったけど。送別会のシーンとかめっちゃ笑いました…飛龍つかさが最高

 

個人的に微妙だった点

舞台のタイトルで損してない?『ハンナのお花屋さん』ってさ…惹かれなくない?ヅカオタを対象にするとなると、もっと派手でウオオオみたいなやつ求められがちじゃない…?ただでさえほんかわしてますよお〜花屋ですよ〜って題材だとあまりヅカオタの需要に合ってないので少しでもよりキャッチーなタイトルにした方が良かったのでは…
わたしは寝ちゃうかな…つまんなそうだけどキキちゃん花組として最後だからなと思ってチケット取って観てみたら思っていたよりずっと面白くて感動したから良かったけどタイトルでつまらなそうって思って現場流したひと居ると思う。

あとこれ言ったら元も子もないけど、母親の名前を店の名前につけるのしんどーーー!マザコン無理すぎる!母親のハンナもめちゃくちゃ電波で出て来るとしんどかった!アベルと結ばれて妊娠したときに「コウノトリが運んできてくれたのね」とか言ってて「ハァ?」ってなったから!電波無理です!ネモ船長以外の電波は受け付けません!

そして時折出てくる意識高い高ーい発言がしんどい。花屋に併設されてるカフェで新しいコーヒー豆の試飲したときに「オーガニックの味がする」とか言っててヒェ〜〜〜ってなったし、しかもそのコーヒー豆がフェアトレードのものだみたいなこと言ってて意識高い無理!ってなって終盤にもフェアトレードフェアトレード言ってて黙って欲しかったです。

 役者の感想

クリス役:明日海りお

初めて明日海さんのことカッコイイ男のひととして見てしまった…!今までただひたすらに綺麗なひと、美しいひとって見ててあまり男性としての性的さを感じていなかったというか、本当に中性的な妖精さんとして見てたのだけど、めっちゃカッコイイの明日海店長!
白シャツにエプロンとか眼鏡姿とかデニム姿とか喪服とか(不謹慎だけど許して)色々ありがとー!最高だった。
本当にイケメンで…いちいちイケメンじゃない?ミアに花束あげたときもだし図書館でミアを助けたときもそうだし、雨でずぶ濡れになってるミアを見つけて逃げようとしたミアの腕掴んで引き留めたりとか!あと従業員の元バレリーナに踊らせて気持ちを解いてあげたときとか、すごい優しい顔してて。
植田先生による私が考えた最高にカッコイイ明日海りお!ありがとうございます!

ミア:仙名彩世

ゆきちゃんは何をやらせても上手だから…とは言えどもわたしが観てきたゆきちゃんの姿って大体おばさまとかそういう役で、ミアみたいな若い女性は珍しくて。すごく可愛かった!
1幕での歌に泣かされてしまった…『金色の砂漠』でオラオラロケットやってる人とは別人みたいだから本当…懸命に生きる姿がとても良かったです。

アベル役:芹香斗亜

上手すぎてしんどかった。まず佇まいが、溢れる包容力やらなんやらで立ってるだけで素敵なのだけど、絶望して崩れ落ちて慟哭するシーンとか歌い上げるシーンとか本当に素晴らしくて、何て素敵な舞台人なんだろうと思った。わたしはこれからもキキちゃんという舞台人を見ていたいと思いました。
キキちゃん、本当にモブレベルかってくらい出てこないのでファンの人的には微妙かもなのだけど、花組としてのキキちゃんのラスト、素晴らしい歌い上げとお芝居でした。

その他

綺城ひかりさん、飛龍つかささん、帆純まひろさんが働いてる花屋って何なの?毎日行くでしょ。花で破産するから。
音くり寿さん、あり得んほど歌上手い下級生って覚えてたけどお芝居もすごく上手ですね…!落ち着いてる…!
羽立光来さんと飛龍つかささんがいい感じに世界を壊さないように笑いを取ってて最高でした。

 

さいごに

まさかの娘役トップと二番手男役がモブレベルに出てこないというお芝居なのに、きちんとお芝居が成り立つという点で花組の芝居力に感動しました。
何度も言って悪いけど、タイトルがつまらなそうだから全く期待してなくてすごい期待値低かったんですけど、個人的にすごーく好きなお芝居でした。心が荒んでるから沁みたのかな…あと心は荒んでるけど結構すぐ感動して涙流すタイプなんで…。
明日海さん、キキちゃん、ゆきちゃん、その他の役者さんたちも、とても丁寧に丁寧に演じていてその役として生きているように見えて、観に来てよかったなあって終わったあとに思いました。

ウエクミ先生といい植田先生といい、わたしは女性の脚本演出作品の方が合ってるのかもしれないです。たまたまかな…
女性の脚本演出作品の方が、「こういうイケメンを見たいんだよ」みたいな、女オタクが好きな男性を出してきてくれる気が…あとちょっとしたところが細やかな所…分からない…邪馬台国とかネモ観たせいでそう思うのかもしれない…

あとあんまり昔の作品の再演とかが好みじゃないことがやっと最近分かってきて…昔の作品よりは現代のオリジナル作品を観たいと思ってるので新しい作品を観れて良かったです。
これから星組遠征が控えてるので一回きりの観劇となってしまったけど遠征予定が無ければもう一度観たかったと思いました。

しかし観てから24時間以内に書く感想は色々書ける…いつもかなり日にち経ってしまうからな…。鉄は熱いうちに打て。

ハンナのお花屋さん Hanna’s Florist
脚本演出 ▶ 植田景子

公  演 ▶ 2017/10/9〜10/29
劇  場 ▶ 赤坂ACTシアター



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