レジンコミックスで連載していた『夜画帳』が完結してしまい、3ヶ月経った今も心にぽっかりと穴が空きすべての景色が灰色に見えてしまったので、喪失感を埋めるように読み返した『夜画帳』の総括記事を書こうと思う。あらゆるネタバレをすべて含んでいるので、どうだっていいという人だけ読み進めて欲しい。 登場人物については過去記事 に掲載したが、本記事にも転載しておく。
『夜画帳』概要
引退した春画師・ナミンの前に稀代の男色家で名家の長男・スンホが現れる。男同士の行為を描いたナミンの春画に魅了されたスンホは、嫌がる彼を無理やり自分の屋敷に連れていき、自分の情事を描くよう命令する。二度と男同士の絡み合いの絵は描かないと師匠の前で固く誓ったナミンだったが、権力者のスンホはナミンに絵を描かせようと追い詰め、やがて彼の興味はナミン自身に向けられていく。
主な登場人物
ユン・スンホ
©Byeonduck / レジンコミックス
ユン大監(テガム)の長男。作中では若旦那と呼ばれることが多い。『所構わず昼夜問わず男色に明け暮れ父親に髷(まげ)まで切られたという希代の好色漢』という最悪なキャッチコピーを持つ男。ナミンが描く春画のファンになり、無理やり専属絵師にしてしまう。情事に明け暮れているためほぼ服を着ていない。
ペク・ナミン
©Byeonduck / レジンコミックス
親に捨てられたのを妓生小屋の長に拾われ、我が子のように育てられた。幼い頃から絵心があったが春画を描く変わった子どもだった。大好きなお師匠さんにしばかれて筆を折った。酒に溺れ日々飲んだくれていたが、ファンを名乗るユン・スンホの命によって専属絵師となる。
チョン・イノン
©Byeonduck / レジンコミックス
村の子供たちの手習い師匠。ナミンにもお師匠さんと慕われている。官僚になることを夢見ている古き良き腹黒野心家メガネである。 ナミンに春画を描かせたい若旦那に官職に就くための支援という形で取引に利用される。
イ・チファ
©Byeonduck / レジンコミックス
大監の息子で、若旦那の遊び相手の一人。若旦那のことが大好きなのでナミンの登場により怒ったり泣いたりしている。ミンにけしかけられムミョンにナミンの始末を依頼する。
ミン
©Byeonduck / レジンコミックス
若旦那の遊び相手の一人。面白いことが大好きで、ナミンを憎むチファに「殺してしまえ!」とけしかけ、ムミョンを紹介する。
ユン大監
©Byeonduck / レジンコミックス
ユン・スンホの父。当ブログではパパ大監と呼びたいと思っている。ある時期に人里離れた地に居を移し要職から退いた。男色で放蕩にふける若旦那を軽蔑していつもぷりぷり怒っている。
ユン・スンウォン
©Byeonduck / レジンコミックス
ユン大監の次男で若旦那の弟。本作において貴重なまともな人間。パパ大監と若旦那のあいだを取り持っている。
ヒナ
©Byeonduck / レジンコミックス
妓生小屋で働いている、ナミンにとって姉のような存在。若旦那に惹かれているナミンの安否を案じ、いっしょに居ても幸せになれないことを諭す。
ムミョン
©Byeonduck / レジンコミックス
つじ芸人のかたわら、暗殺などの裏稼業も請け負っている。ナミンを憎むチファに始末を依頼される。
ドッチェ
©Byeonduck / レジンコミックス
若旦那の屋敷で働いている使用人。下賤な身分であるにも関わらず若旦那の加護の元、いいご飯を部屋で食べたり働いていないナミンが気に入らず、ナミンをしばいているところを若旦那に発見されしばかれる。
第1部
概要
・若旦那がナミンを専属絵師として自分の屋敷に住まわせる ・ナミンに春画を描かせるためにイノンの支援を申し出る形で利用 ・イノンはナミンの気持ちを利用 ・イノンは若旦那からの支援を受けつつ若旦那の弱みを握ろうとする ・若旦那がナミン自身に興味を持つようになる ・チファがナミンを憎む
若旦那とナミン
若旦那とナミンの出逢いや、ナミンに春画を描かせていた若旦那の興味が春画からナミン自身に向くさまが描かれたのが第1部。若旦那を奪われたくないチファがナミンをしばいて、それを見た若旦那がチファをしばいたりなど、ナミンに執着し始める。 ナミンが描く春画に惚れ込んだ若旦那は、ナミンを専属絵師として自分の屋敷に住まわせる。その頃の若旦那は、夜な夜な両班の男たちを集めて阿片を吸いながら情事に明け暮れているうえに冷酷な存在で有名だった。若旦那は、最初はナミンに無理やり春画を描かせていたが、次第にナミン自身に興味を持つようになる。 はじめてナミン自身に興味が湧いたきっかけは、ナミンが恋しているお師匠さんの存在を知ったことだった。たまたまナミンが持っていたお師匠さん作の時調(短歌のようなもの)を若旦那が見たとき、すぐにそれがパクリだと気付いてバカにするんだけど、それに対してナミンが怒るん。
色事なんかを好む若旦那のような方には到底理解できない…立派な方が書かれた時調です…!私にとってはとても大事なものなので返してください
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』8話
こいつがこんなに言ってくる奴はどんなもんなのかと、これがきっかけで若旦那は部下にお師匠さんの素性調査を命じるんだけど、「色事なんかを好む若旦那のような方には到底理解できない…立派な方が書かれた時調です…!」が存外効いてしまったらしく、そのあとも2〜3回反芻していて根に持ちまくっていた。 直接お師匠さんに会いに行った若旦那は、お師匠さんの有能さを褒め称えて科挙を受けて官僚になるまでの支援を願い出る。思ってもないことをペラペラ話す若旦那ちょっとおもろい。若旦那は筆を折ったためになかなか春画を描こうとしないナミンに対して「お前が描けばお師匠さんを支援してやる」と取引に利用するためにお師匠さんを屋敷に招き入れ面倒を見ることに。 若旦那とナミンの関係性に転機が訪れたのは19話。春画を描くことをやめたはずのナミンが若旦那のために春画を描いていることが、お師匠さんにバレて軽蔑されてしまう。ショックで荒れてしまったナミンが強い酒を飲んで酔っ払ってしまうのだけど、酔っ払いすぎて若旦那をお師匠さんと勘違いしてチューしちゃうんだよね!若旦那もいい機会だとばかりに勘違いされたままナミンを抱いてしまう。読みながら「なんでそうなるんや」と何度も思った。ところで情事の最中にナミンに経験がないことを告げられた若旦那が「あんなにスケベな絵を描いてるのに…?」って驚いたの笑った。いいだろべつに! その後しばらくして体を交えたのはお師匠さんではなく自分だと若旦那に明かされたナミンは「慕っていると告白したのはチョン・イノンで若旦那ではない」とキレる。若旦那にめちゃくちゃにされても「若旦那が死ぬほど嫌いです」と言ってくるナミンの言葉がまたしても効きまくってしまって、「もっと嫌われなくてはな」と若旦那が抜刀してお師匠さんを殺しに行こうとするので慌てて止める羽目になる……………口淫で………。本当になんでやねんが止まらない回も少なくない。 29話では若旦那の元に居ることがしんどくなったナミンが屋敷から逃げて、街にいるお師匠さんの元へ走って「このままだと殺されてしまうから逃げましょう」と頼むも、ナミンがどうなろうとしったこっちゃないお師匠さんはそのまま続けろと突き放す。屋敷ではナミンが失踪したことにキレた若旦那が大暴れしており、帰ってきたときもめちゃくちゃ怒っていてナミンに執着している様子が現れていた。 お師匠さんを慕い続けるナミンの言っている意味も、それに苛立ってしまう気持ちの正体も、何でナミンの言葉が効いちゃうのかも分からない若旦那……( ᐪ ᐪ )
スンホ「なぜそこまでチョン・イノンの立身出世にこだわるのだ?あやつに竿をぶら下げた貴様を嫁にもらってやるとでも言われたのか?チョン・イノンが科挙の及第したとて貴様になんの利がある?」 ナミン「見返りなど求めていません…!私は…力になりたいだけです」 スンホ「恋い慕っているから何も望んでおらぬと…?バカバカしい」
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』40話
若旦那に利用されるお師匠さん
お師匠さんことチョン・イノンは村の手習い師匠、日本で言う寺子屋の先生のようなことをしている。昔から機会があれば科挙を受けて官僚になることを夢見ていた。自分はこんな村でくすぶってるような人間ではないと思っていて、子供たちに字の読み書きを教えていることをバカバカしいと思っている所に若旦那が現れる。
村の子供たちの手習い師匠をやっています とは言っても…手すさびのようなものですが 何せ親が畑を耕しているような無能な血筋ですから 教え甲斐もないですしいいように緩くやっています どのみち百姓になる運命なら 早いうちから土に触れ 山に出たほうが彼らのためになると思いませんか?
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』6話
その腹の底にあるものを見抜いた若旦那はお師匠さんを利用することに。学のある若旦那にとって、お師匠さんは大した実力もない人間。なのにも関わらず、ナミンに立派な人だと慕われて上を目指している滑稽な存在である。お師匠さんは若旦那のことを放蕩息子だと思っているけど、自分には持っていないものばかり持っている若旦那に対してものすごくコンプレックスを持っている。
だだっ広い屋敷…有り余るほどの数の使用人 豊かな財物 その上権力化… 私にないものを見事に兼ね備えている あんなちんけな男が…
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』18話
22話では若旦那とお師匠さんがしずかな言い合いをするんだけど、結局若旦那に勝てるわけもなく、若旦那が去ってひとりになったお師匠さんが天を仰いで「畜生め…」とキレるシーンがあってそれがとてもいい。そのあとお師匠さんはナミンの気持ちを利用して若旦那の弱みを握るべく、「誰と関係を持って何を話したか何が好きで何が嫌いか細かなことまですべて漏らさず逐一報告しろ」とスパイを命じるんだけど、卑怯者すぎるだろう。ナミンにだけではなく、村の小間使いのような男にもユン家についての調査を依頼していて、その理由をこう答えている。
敵に回そうというわけではありません 沈みゆく勢家にいつまでもしがみついてはいられませんから… ユン・スンホとの繋がりは間違いなく私の足かせになります いつの日か私が科挙に及第し要職に就いた際に… …そのときに動かせる小さな駒が欲しいだけです
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』29話
ちなみにお師匠さんは若旦那がナミンに執着していることに気付いているし、それでもナミンが自分だけを慕っていることを知っていて、そのことが唯一若旦那に勝っていることなので、ナミンを連れて帰ってきて激昂してる若旦那にこうマウントを取っている。
ナミンのせいでずいぶんと気を揉まれたそうですね 何しろ昔から私にだけ従順な奴でしたから なかなかユン殿の思うようにはいかなかったのでは? 私がよく言い聞かせておきましたからご安心ください
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』30話
ちなみに、このマウントはめちゃくちゃ効いていた。
ナミンとお師匠さん
ナミンはずっとお師匠さんのことを慕っている。先にも書いたが、過去に大好きなお師匠さんに春画を描いていることがバレて、「低俗で汚らわしいことだ」としばかれたことで筆を折っている。お師匠さんはナミンのことなんも思っていないが、ナミンが若旦那に自分を優秀な人間だと推薦してくれたと思っているので、こんな奴でも役に立つんだなとは思っている。ただ、スパイを命じたナミンが若旦那のために口を閉ざしたことで完全に突き放してしまう。
てっきり私のためにユン・スンホと寝てまで弱みを探ろうともがいているとばかり思っていたが…とんだ思い違いだった 体のみならずついに心まで許したか あのユン・スンホがしきりにそなたのことで屋敷の空気を乱しているというのに気付かないほうが不自然だ 私のためなら命もいとわぬ勢いだったが共に夜を過ごして目移りしたのだろうな 陽物を受け入れたことでこれぞ自分の路だと確信を得たのか? 私のためとは言わさぬぞ あのような下品な絵ばかり描くのは妓生小屋で育ちそれしか知らぬがゆえ…教え導けばどうにかなると思っていたが違ったようだ 体を売ることがそなたの性に合っているのだろう
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』40話
ひどくて草 このことでナミンが自暴自棄になって自ら若旦那に抱いてくれと頼んで、抱かれている所をチファが目撃して、ムミョンに始末を頼むという流れになる。なお、お師匠さんは科挙を受けるために若旦那の別宅に引っ越してしばらく登場しない。
第2部
概要
・ナミンをしばいている屋敷の使用人ドッチェが若旦那にしばかれる ・「恋」が分からない若旦那が苦悩する ・チファに始末を依頼されたムミョンがナミンを拉致する ・若旦那に惹かれ始めているナミン ・ミンに気持ちの正体に気付かされる若旦那
若旦那とナミン
若旦那がナミンのことをものすごく好きになる。遊び仲間のミンにナミンとの関係をからかわれて「お主にとって特別な存在だとでもいうのか?」って煽られるんだけど、自分の気持ちを認めることができない若旦那は、ナミンも乱🌟交に参加させようとナミンを探す。その途中で屋敷の使用人であるドッチェにナミンがしばかれてる所を目撃して激昂してドッチェをしばきまくるんだけど、ナミンが死んでまうで!と止める。騒ぎを聞きつけて野次馬しに来たミンが「若旦那めっちゃナミンのこと好きやん」と確信する。
やはり…私が思ったとおりだ 下賤の者に止められて素直にやめるとは… お主は誰かの制止を聞き入れるような男ではないのに…
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』53話
ミンは若旦那の前で突然ナミンにチューしてしまう。若旦那が咄嗟にミンを殴ってナミンを抱きしめるんだけど、それを見たミンがめっちゃ喜んで叫ぶ。
気があるんだろう?お主はその卑しい絵描きに惚れているんだ!
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』53話
ミン殿へサンキューな。
この『夜画帳』という作品は、お師匠さん、チファ、ミンといったように主人公二人を取り巻くキャラクターたちが物語を動かしているのである。若旦那とナミンは自分の気持ちに疎すぎるし基本的に二人だけになると肌色シーンになってしまうので話が進まず埒が明かないのだ。この物語において最も大切な若旦那とナミンの想いを気付かせてくれたミン、最低な奴だけど、サンキューな。 なお、チファに告白されたあとの若旦那はこう吐露している。
今日…私に恋慕の情を告げてきた者が貴様だったなら…などとふと思ったが …今でも夢のようだ… …貴様が私をチョン・イノンだと思い違いをし私に抱かれた日… 必死にしがみつき思いを口にする貴様の姿があまりに滑稽で… 弄んでやるつもりでいたが… なぜ今なお…あの姿と表情が私の頭の片隅から消えぬのだ…
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』57話
それはね 恋 なんだぜ
若旦那とチファ
チファは幼い頃から若旦那のことが好きでいちばんの理解者でありたいと思っているので、ナミンに惹かれている若旦那の様子に耐えきれずに57話で一大告白する。
おぬしを理解している唯一の人物が誰か思い出せ おぬしが誰と寝ようと私が離れなかった理由は何か… おぬしの性情がなぜそうなったのか…毎晩何がおぬしを苦しめているのか…私は知っているから 私なら受け入れてやれるから… もう意地を張って待ってばかりはいられぬ 恋い慕っているぞスンホ… 幼い頃からずっとおぬしを思っていた… これ以上私を狂わせないでくれ…
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』57話
若旦那は人間を信用したり愛し愛されという感情が分からないことに加えて、「本当に私のことを想っているならその名前で手紙はよこさなかった」とチファを拒絶する。チファはどうしても若旦那に逢いたかったので、この名前で手紙を出せば逢えるだろうと『ソン大監』という名前で手紙をよこしたんだけど、若旦那はチファの字だと見抜いていたんよね。この『ソン大監』って誰?って話なんだけど、そいつは若旦那にとって地雷的存在で、ちゃんと登場するのは第4部というはるか先である。
ナミンがムミョンに攫われる
若旦那とナミンはいい感じになりかけてたんだけど、情事のあと若旦那が寝てる間にチファに始末を依頼されたムミョンに攫われてしまう。トドメは好きなように刺してくれと言われたチファは結局ナミンを殺せずにナミンは解放される。 ナミンが失踪するのは二度目で、若旦那はまた自分から逃げたのだと勘違いして信じた私が悪かった状態になるし、ナミンはナミンでめちゃくちゃ怖い目に遭ったし、口外したら今度こそ殺すとムミョンに言われてるので真相は言えずだしですれ違ってしまう。
…情けない 貴様の笑う顔すら見たことがないというのになぜあの一言に舞い上がってしまったのだろうか 絶対に放すものか
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』63話
すれ違ってしまったので捨てる、というわけではなくますます執着する辺りが執着系BLだなという所感。 両班を嫌っているはずのナミンが悪名高いユン・スンホの屋敷に住まわされていることを聞きつけた姉のヒナは、ナミンを取り戻すべく屋敷を訪ねる。その際に若旦那がヒナに会わないようにナミンを縛ったりするんだけど、ナミンは拉致されたときのことを思い出して混乱してしまう。その様子を見て若旦那はナミンが自分から逃げたのではなく何かあったのだと察したうえに手首に縛られたときの痣を見つけて大反省大会を開催する。そのあと若旦那が抜刀した状態でチファの屋敷に乗り込むんだけど、ヤバいシーンなのにチファが面白すぎてちょっとギャグみたいになっている。 若旦那はナミンに「もう手荒いことはしないから私を突き放すな、求めることはそれだけだ」と言ってナミンを大切にすること約束する。最初から手荒いことをするな。
第3部
概要
・パパ大監の給仕がやってくる ・パパ大監もやってくる ・ユン家の過去が判明 ・ミン殿たちが退場
パパ大監の給仕がやってくる
パパ大監の給仕がやってくる。パパ大監から何度も噂されていることは本当かと近況を訊ねる手紙が送られてきたんだけど、届く度に若旦那が読まずに燃やしちゃってたんだよね。弟のスンウォンがパパ大監と逢うように言ってきたこともあったけど拒絶したので、今回給仕が直接来たんだけど「今回も返事がなければ大監殿が直接来る」と言ったら給仕をしばいてしまった。理不尽で草なんだけど、ボコボコにされた給仕の姿が答えってことなんだろう。 パパ大監と若旦那の確執は今まで少しだけ出たものの、なぜお互いが憎しみあっているか、ユン家に何があったかは明かされていなかったのだけど、第3部にしてやっと真相が少し見えてくる。
官職に就くや否や地方に追いやられたというのに 周りが大監大監ともてはやすから思い上がるのだ… 私の股ならいざしらず老人の尻などいくら舐めても出世はできぬぞ
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』80話
お師匠さんが聞き取り調査してたときもこういう話が村民から出ている。
ユン家と交流があった両班はほとんど滅びた 謀反を企んだ罪に問われ粛清された ユン大監は巻き込まれずに済んだものの、程なくして地相が悪いだのなんだので突然人里離れた地に居を移した 要職まで退いて… それにしても妙だと思わんかね? ユン大監殿が政治から足を洗った時期と逆賊が粛清された時期が重なっておるということが
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』18話
86話では本当にパパ大監が屋敷を訪れて、スンウォンが科挙の首席合格者になるから、お前のせいで崩壊した一族をスンウォンが築き直してくれるだろうと話すんだけど、それに対して若旦那が言い返す。
一族を築き直す?何寝ぼけたことを この一族が誰の手の内にあるのか…もうお忘れですか? 逆賊の息子を宮廷に入れるだなんて 誰の許可を得て一族を築き直し権力を握らせようというのか… 私はまだ悪夢の中でもがいているというのに 一族が地に落ち他者から蔑視され… 大監殿の息子が何故こうなったのかまだ分からないのですか?
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』86話
逆賊だったんかい!!!!!!っていう…謀反を企てた両班たちの一つがユン家、パパ大監だったっていうのがここで判明する。それと同時に若旦那がこうなっちゃってるのもパパ大監のせいだという。でもパパ大監は若旦那に対してお前はもともと壊れてたって言ってくるん…
貴様が自分で撒いた種をいまさら誰のせいにするというのだ! 野良犬ですら自分の身の程をわきまえているというのに 後先の区別もつかぬ貴様ごときが何を偉そうに…! 貴様はすでに腹の中にいた時から壊れていたのだ 貴様などこの世に生まれてこなければ…
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』86話
ひどくて草 若旦那も負けじと言い返す。
あの日貴様は私を奈落に陥れた たかが小間使いの言うことを信じたがためにな 何年もの間あの汚らわしい人間の肌の匂いの中で 一体私がどうなることを期待したのだ?
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』86話
「たかが小間使いの言うこと」の「小間使い」って誰やねんって話になってくるんだけど、これが判明するのは第4部。
若旦那とナミン
孤独な人生を送ってきただろう 誰の理解も得られなかっただろう 求めることすら諦めていたはずだ 一番身近な人から得られなかったものを誰に期待できるだろうか
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』88話
給仕のキムさんというおじさんから過去に若旦那の身に何があったか聞き、そしてパパ大監に罵倒されている若旦那の様子を見たナミンは、若旦那が抱える孤独に触れて信じることを決めていた。 ナミンは里親的な存在にちゃんと育ててもらったものの元々は捨て子なので、状況は違えど「実の親に愛されなかった」という点で若旦那の苦しみに寄り添えたんだよね。 若旦那は若旦那でナミンにますます執着するようになっていって、ナミンの前ではそんなでもないんだけど、裏ではヒナからナミン宛の手紙をナミンに渡さずに処分してたり、ヒナを監禁して説教したりとか、自分からナミンが離れてしまうような危険分子は許さんぞという感じになっていく。
ドッチェ 死す
第2部でナミンをしばいて若旦那にしばかれていた使用人のドッチェが井戸から死体で見つかる。若旦那とナミンはいっしょに妓生小屋を訪れて泊まることになったんだけど、若旦那は今でいう警察に呼ばれて先に出て行った。ナミンは代わりに迎えに来た屋敷の人と帰ろうとしてたんだけど、忘れ物に気付いてひとりで妓生小屋に戻る。そこでナミンに逢えたヒナはお師匠さんが若旦那に殺されたことを告げる。
私が見たものをあなたに伝えるために手紙を送ったのよ せめてあなたが私に会いに来るように何度も手を回したのに… それをユン・スンホは全て隠していたのよ 自分の口でそう言ったの …私ね 亡きがらを見たの …お師匠さんの後ろ盾になると言ってあなたを丸め込んでお師匠さんが用無しになった途端ユン・スンホはお師匠さんを殺したのよ…! ナミン 私たちのお力になってくださる方がいるわ だから…
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』97話
若旦那はヒナの手紙を読んでいたので、お師匠さんが死んだって情報は目にしてたんだけど、若旦那からしたらお師匠さんの生死なんてどうだっていいので、それよりもナミンが自分から離れないように外部からの接触を遠ざける方が大事だったと思われる。
町の手習い師匠が死のうが死ぬまいが私や貴様の弟とは関わりのないことだ 貴様も命が惜しいのならばそれ以上深入りをするな 貴様の弟は私のそばから離さぬ
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』93話
なんでヒナがナミンにお師匠さんが死んだと伝えたのかというと、全部ミンの策略によるもの。ミンはチファに成りすましてヒナと接触。ヒナと情を交わしていろいろと情報を得て、ヒナからの信用も得るようになっていた。ムミョンがナミンを攫った際にいっちょかみしていたドッチェを殺して、お師匠さんが着ていたものと似た道袍と帽子を死体と共に井戸に投げ込んだ。実際に井戸の中をミンに見せられたヒナは、道袍を見てすっかりお師匠さんだと思い込んでしまったというわけ。ミンはね、本当に暇なんす。ちなみにお師匠さんはピンピンしていて第4部で無事に科挙に及第する。
ミンによる蛮行と若旦那による成敗
ナミンは若旦那を信じたいので、直接聞かなきゃいけないと思いながらお師匠さんの家に行ったところ、部屋中が血まみれになっていてショックを受ける。(この血は後にミンが撒いた鳥の血であることが分かっている)呆然としている所を背後から男たちに殴られて攫われてしまう。攫われてばかりやねんこの人。チファはミンに依頼されてヒナを霊媒師屋敷に連れてきたところ、気絶してるナミンは居るし、ヒナはミンのことをチファと呼ぶし何が何だか状態。チファの理解が追いつかないままヒナは始末のために頭に袋を被せられて部下にどこかに連れて行かれて、ミンを始めとする両班たちがナミンを犯そうとする。 チファはただ若旦那とナミンを引き離したかっただけだし、ナミンのことは憎いけどこんなことは望んでいないためその場を逃げ出す。仲間の両班に連れ戻されそうになった所をムミョンに助けられ、ドッチェを殺した犯人はチファではないかという流れになっていることや、若旦那がお師匠さんの家に向かっていることを教えてもらう。 お師匠さん家で若旦那と逢ったチファは霊媒師屋敷で起きようとしていることを若旦那に伝えて、若旦那は霊媒師屋敷に辿り着いてミン含むその場に居た両班たちを刀で皆殺しにする。ミンたちは喚くんだけど若旦那は霊媒師屋敷に到着したときから一言も発してないところがよかった。脅しも命乞いも何も耳に届かずただナミンを傷付けた奴らを殺すことしか頭になかったんやね。 ナミンを救出した若旦那は雪が降る中ナミンを抱いて歩いてて、「若が来てくださるのをずっと待っていたのに…遅いではないですか」と意識を浮上させたナミンに言われて「…遅くなって すまない…すまなかった…」と涙を流して第3部が終わったんだけど「もうこの人ら幸せに終われないんじゃなかろうか…」と不安が募りまくっていた。雪の中で泣きながら謝る若旦那のシーンは絵が上手すぎてとても素晴らしいし、71話で「主が下の者に頭を下げることはできぬゆえ…」って言ってたことがあって、もう主従関係じゃなくなっていることから明確に示されていたところだったり、血も涙もないようだった人が涙を流すようになった変化が個人的に好きだった。
第4部
概要
・若旦那に救出されたナミンは事件のせいで心身ともに衰弱する ・ナミンは若旦那に捨てられることを恐れる ・若旦那が所持している「回状」を巡る問題が発生する
ソン大監の登場
第4部にしてやっと登場したジジイことソン大監。すべての元凶っちゃ元凶である。
©Byeonduck / レジンコミックス
第2部でチファが若旦那をおびき寄せるために手紙に使った人物で、第3部でパパ大監と若旦那が喧嘩してたときに若旦那の口から出た「小間使い」も恐らくこのジジイである。 若旦那の少年時代に、よその少年とチューしてる所を見てしまった父親が激昂しちゃうのね。女と世継ぎを産むのが当たり前の時代と身分なので、同性に対してチューとかしてる息子は病にかかったのだと思ったパパ大監は医者に診せに行ったんだけど、体の病気ではなかったし医者はよく分からなかったそう。医者によるそのときの様子が第1部に出てきている。
若旦那は元々決して傍若無人な人ではなかった むしろ村で最も聡明だと言われていたくらいだったが…幼い頃に病を患ったようだ 精神を病んでいるようだと12歳のときにユン大監殿に連れられて初めてお見えになったのだが そういうことなら巫女に頼んでくれと私が言うとそういう問題ではないと… 若旦那の陽気が変な方向に噴き出していると訳のわからぬことをおっしゃって… 詳しい症状についても口を閉ざすばかりで結局薬を処方することはできなかった 後から聞いた話によるとユン殿はそれを伝染病だと言い若旦那の外出を一切禁じたそうだ チファ殿にもうつったと聞いた 当のチファ殿は健康そのものだったというのに… それから数年後に若旦那が狂病と不眠症を患っていることがわかったわけだが… …今でも私は不思議に思っている 若旦那と二度目に会ったときは確かに病の症状が見て取れた 顔がどす黒く目に血の気がなかったのだ ところが初めて会った日は…決してそのようなことはなかった 目の色も顔色もよく…表情も明るかった 無理やり連れてこられたにもかかわらず… 間違いなく屋敷に閉じ込められている間に若旦那の身に何かが…
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』57話
男色の気があった若旦那のことでパパ大監は狼狽してしまっていた。ソン大監はパパ大監に自分が矯正してやろうと提案して、蔵に若旦那を監禁して目の前で男女の性行為を見せつけて「教育」したんすね。そして毎日のように蔵に妓生を送り込んで無理やり若旦那は女性と性行為をさせられて壊れてしまったというわけ。パパ大監に助けてもらえなかった若旦那は誰も信じることができなくなって自暴自棄に振る舞うようになったんだけど、なぜ自暴自棄になっても殺されずに無事で、しかもユン家を率いている立場になれているのかというと「回状」の存在が鍵になってくる。
回状
かつて両班たちによるお国への謀反が企てられていて、謀反に関して書かれた書類が回状である。回状には謀反に関わっている者たちの名前が連なっていて、その中にパパ大監やソン大監の名前も含まれてる。この回状が今でいう警察に持って行かれたら一族はおしまいになってしまうので、それが若旦那の手にあるためにパパ大監もソン大監も手出しできなかったし、このせいでパパ大監とソン大監は官僚を退くことになった。 この回状は若旦那が小屋に監禁されているときにある者に渡されたのだけど、ということは仲間内の中に裏切り者が居るということにもなるので、パパ大監やソン大監は「回状の回収」とは別に「裏切り者が誰か」も気になっていた。
蔵に閉じ込められていた私がいかにしてあの回状を手に入れたのか疑問に思われたことはありますか? 私の身に何かあれば代わりに告発しようとしていた者がいるということです 父上 あなたの屋敷に
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』116話
弟ユン・スンウォンの存在
©Byeonduck / レジンコミックス
ここで鍵になるのが若旦那の弟であるユン・スンウォン。本作で最もメロってしまったのがスンウォンである。スンウォンは聡明で優しくてかっこよくて本作で唯一と言っても過言ではない程のまともな人物で、このスンウォンこそが回状を手にして若旦那に渡した張本人である。 若旦那とスンウォンは生き方が違っていて、自分を破壊してユン家の名を汚していくことで父親に復讐している若旦那に対して、スンウォンは科挙に及第して官僚に就こうとしている。そんなスンウォンに対して若旦那はこのように訊ねている。
そなたが科挙を受けたのも父上の命令か? 謀反の証拠であるあの回状にはそなたの父親もしっかりと名を連ねている それを知りながら官職に就こうとするとは正気か?©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』118話
若旦那の生き方が理解でいないスンウォンはこう答えている。
兄上…私は父上の過ちのせいで一生息を殺して生きていきたくはありません 回状をお渡しする際に約束したことを覚えておられますか?兄上に何かあったときは代わりに回状を公にすると… 幼さ故の戯言でした 私は兄上がいつかは変わると信じていましたから …私こそ兄上のことが理解できません いつまで過去に縛られながら生きていくつもりですか?生涯にわたり自分を壊すことが父上に対する復讐ですか?そもそも証拠を握っていながら兄上は何がしたかったのですか?
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』118話
兄弟の話し合いの少し前に、パパ大監の命によってスンウォンと部下は若旦那の屋敷のガサ入れをしている。スンウォンは床から見つけた回状をナミンに渡して「そなたの背の君の命綱だ」って見つからないように伝える。時を同じくして若旦那はパパ大監の部下に刺されて殺されかけたんだけど、パパ大監に若旦那を殺せとけしかけたのはソン大監だったの。それを踏まえてスンウォンは回状をパパ大監に手渡すように提案する。
父上の庇護のもとにいなければは兄上にはなんの力もありません 生きるためには父上のもとに帰るしかないのです 自分の官服を脱がせた兄上に対するソン・ハソンの恨みは想像以上に深いものです この先はそれ以上のことが頻繁に起こるでしょう あの絵描きの身の安全も保証できません せめて父上だけでも味方につけるべきです 兄上が自らあの回状を差し出し父上に許しを請えば あの絵描きと平和に暮らすことができるでしょう
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』119話
このようなスンウォンのまともパワーを浴びた若旦那は、回状を渡してナミンと今居る地を離れて暮らすことを決意する。
不屈のお師匠さん
お師匠さんはミンに面倒を見るから加担しろと言われていたものの、ミンが居なくなってしまったのでどうしたもんかと思っていた所をソン大監に拾われる。ソン大監は回状を回収すればすぐにでも官僚に就けるようお師匠さんにけしかけ、お師匠さんは隙を見てナミンを攫う。何回攫われとんねんと。ピーチ姫もびっくりである。 このソン大監とお師匠さん、そしてソン大監とナミンは実は初めましてではないのだ。 かつて大科(科挙の一種)を受けるにあたって、お師匠さんはソン大監に力添えが欲しいと依頼して妓生小屋で逢ったことがある。そこでソン大監が幼かったナミンをいびっていることに対してたしなめてしまい、そのせいでお師匠さんは官職の道を閉ざされることになってしまった。そして謀反や回状の件があり自らも官職を退く羽目になったソン大監は、その後もナミンをいびることで苛立ちを発散していたのだ。 ナミンが初期に若旦那に春画を描くために利用された「お師匠さんのため」という気持ちは、自分のせいで官職に就けなくなったお師匠さんのため、という所から来ているのである。
ソン大監 全部おまえのせいやんけ!
若旦那とナミンが出逢う前から、若旦那とナミンを苦しめていた諸悪の根源がソン大監だったというわけ。そんなこんなでピーチ姫を迎えに来たマリオはクッパと対峙する。
あなたはただ私を弄んで楽しんでいただけではないか 父を助けるという名目で苦しむ私を見てさぞ面白かったことだろう
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』123話
若旦那がソン大監にそう言うと、ソン大監はそうではないと若旦那に答える。
それは誤解だ 私はそなたに特別な感情などない スンホ 厳密に言えば私はそなたの父親が面白かったのだ 普段はめったなことで動じない堅物な男が そなたのこととなるとたった一言で理性を失ってしまう様が滑稽で仕方なかった 自分の息子を拒絶するあまり矯正と銘打って我が子が何をされているのかも認知できず そのうち自分がなんのためにその行為を傍観していたのかすら忘れ ついにそなたを殺すといって私を訪ねてきた そなたも自分の父親を愚かしいと思わぬか?
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』123話
ゲスいおじいさんすぎるのだが、ナミンをしばいて海に捨てたことを告げるとあえなく若旦那に殺されて物語から退場となった。ちなみにお師匠さんもその前にソン大監に用済みだと始末されてしまい退場している。 ところでナミンはどうなった?って話なんだけど、ソン大監の隙を見て逃げ出したものの追っ手に捕まってしばかれて海に捨てられたのは本当である。でも漁師に引き揚げられて、いろいろ捜索していたパパ大監の元に渡っている。そうとも知らない若旦那は海に向かって呆然として号泣するのだけども、若旦那の号泣する顔が良すぎて「ここまで読んできた甲斐があったな」などと思ったね。124話は最高だよ。 目を覚ましたナミンはパパ大監にドッチェ殺しも霊媒師屋敷の放火もその他もろもろすべての罪を被れと命じられてそれを承諾する。スンウォンの計らいでナミンに逢えた若旦那は、ナミンを無罪にして代わりにお師匠さんがやったこと根回ししてもらう対価としてユン家の復興をパパ大監に約束する。
父上のお望みどおりに生きてまいります 父上が求めておられた誉れ高き息子となり 私が傷つけた家門の名誉挽回と汚名返上に力の限りを尽くします どうか彼をお助けになり 私の弱みを握り父上の思いのままに私をお使いくださいませ 父上の一生付き従う所存でございます このとおり伏してお願い申し上げます
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』123話
スンウォンにも言われてたけどパパ大監は何だかんだで若旦那のことを殺せなくてどこか希望を持っちゃってたので、警察みたいなところに賄賂を渡してナミンを無罪にしてもらうよう頼み、真犯人はお師匠さんとなった。死人に口なしということである。ナミンを解放した若旦那は、意識が朦朧とするナミンに約束をして姿を消す。
今はこうして離れることになるが… 忘れるな 決してそなたを見捨てるわけではない いつになろうと… 私たちは必ずまた会える
©Byeonduck / レジンコミックス 『夜画帳』127話
ニョ…………
祝・大団円
恐らく数年経ったものと思われるんだけど、ナミンは村でのんびり絵を売ったり畑仕事を手伝ったりしていた。お世話になってる村のおじさんから、パパ大監が死んだことと若旦那が科挙に首席で合格したという話を耳にする。首席で合格するくらいだからきっとすぐ官僚に就いたりするんだろうなーと思っていたところに新しい県監が赴任してきた。大名行列みたいな感じで担がれて来るので村民はみんな見に行くんだけど、それよりもお金を稼ぎたいナミンは畑仕事に向かう。赴任したその日に、県監から肖像画を描くよう屋敷に呼ばれたので訊ねてみたら、その県監は─────という形で夜画帳は幕を下ろす。 まず第3部の終盤辺りから「この人たち、死ぬのでは?」「どっちか死ぬのでは?」「心中エンドでは?」などという不安が巡ってきて、「こんなに長いあいだ見守ってきた二人がどっちかでも死んだら情緒が終わるんだが」と気が気でなかったのだけどそうしたらこの終わり方で感無量ってこのことすぎる。 なんたって、平成に絶滅したと思われたスパダリを令和の時代に見ることができたのだ。思わず目頭が熱くなったね。「スパダリじゃん」って令和に発することはもう無い単語だと思ってたから。「スパダリじゃん」以外の感想が出てこないわけ。若旦那はもともと字も達筆だし優秀だったわけなんだけど、自分の持っていた地位と実力を愛している者のために遺憾なく発揮して、愛してる者が住む場所で県監として赴任してくるってスパダリじゃん。それしか出てこないよ。たぶん県監って現代日本で言う県知事みたいなもんだと思うんだけど、もうあっぱれ。本当にあっぱれ。 連載が終わってしまったのが2023年の11月なんだけど、冒頭にも書いたようにそれから3ヶ月経っても寂しいよーって気持ちだった。こうして振り返ったことで物語の解像度が高まって寂しさが埋まったし夜画帳を愛する気持ちがより強固になったのだった。 一生懸命書けて楽しかった。毎回記事タイトルに難儀するのだが、連載から解放された作者が外伝など描きたいものが他にもあるとのことで「だからさようならとは言わせない…夜画帳は永遠に進行中…」と残していたので、永遠という言葉を入れた。夜画帳は永遠なんだ──────。